近藤医院ホームページ


院内通信

「動脈硬化って何ですか?」
 春とはいえ、まだ肌寒さが感じられます。春が来れば夏、夏が来れば涼しい秋が待ちどうしいという人間とは何と勝手なのでしょう。せめてその季節の彩りを味わえる余裕がほしいものです。
 さて院内通信第一号はおかげさまで好評でした。調子に乗って第二号を発行します。今回は「動脈硬化」を取り上げました。この動脈硬化という言葉は皆さんが誰もが聞いて知っておられるはずなのですが、「自分は動脈硬化になっているのかどうか」をすぐに答えられる人はそう多くはないでしょう。そもそも動脈硬化とは病名と言えるでしょうか?しかし「血管がボロボロになる」「血液がねばねばになる」という何だかこわーいイメージがあるのも確かです。それではこの得体の知れぬ「どうみゃくこうか」について説明しましょう。

動脈の構造と動脈硬化
 まず動脈の形について説明しておきます。もちろん皆さんご存じだと思いますが、動脈は体の隅々まで血液を運ぶための「管」です。まず心臓から出て腕、脳、背中や胸、内臓へゆく枝を出し、ずっと下って両足に分かれてつながってゆきます。心臓から出たときは直径2、3cmという太さですが、枝分かれするにつれてどんどん細くなってゆき、最終的には直径約10ミクロン(1000分の1cm)という髪の毛より細い毛細血管になります。この内、動脈硬化が起こって問題になるのは心臓を養う冠状動脈、脳動脈や腎臓の動脈などで、直径数ミリ以上の比較的太い動脈(肉眼で見えるぐらいの太さ)です。
 動脈の壁は内側から内膜、中膜、外膜という三層からできでいます。動脈硬化とはこの「壁」が分厚く硬くなり、そのため内腔が狭くなって血液をスムーズに流せなくなった状態を言います。壁が分厚くなるのを詳しくみると、コレステロールがたまったり、中膜にある筋肉の成分を持った細胞(平滑筋細胞という)がふえて積み重なっています。
 
動脈硬化で起こる病気
 ではなぜ動脈硬化は問題となるのでしょうか。実は動脈硬化のごく軽い段階はすでに20歳代から起こっています。そして年齢と共に徐々に動脈の壁は分厚く、硬くなっていきます。まさに「人は血管と共に老いる」というわけです。これは自然な老化に伴う動脈硬化ですが、高血圧、高コレステロール、糖尿病、喫煙習慣などがあると病的な動脈硬化が重なり、血管を細くしたり、詰まらせたりして以下のような色々な病気が現れます。

 ・狭心症、心筋梗塞  心臓は筋肉からできており、その筋肉(心筋という)を養うため表面に冠状動脈という動脈が走っています。ここに動脈硬化が起こり、内腔が狭くなって心筋に血液が届きにくくなり胸痛発作が起きるのが狭心症、狭くなったところで血の塊(血栓という)で詰まってしまうと心筋の一部が傷害され、心筋梗塞となります。

 ・脳梗塞、脳出血(まとめて脳卒中) 脳動脈硬化が起こり、血栓ができて詰まると脳の一部が障害を受け、脳梗塞となります。また脳の深いところに入り込んでいる細い動脈が高血圧の影響で動脈硬化を起こすと壁がもろくなり、突然破れて出血するのが脳出血です。

 ・閉塞性動脈硬化症 少し聞き慣れない病気かもしれません。大動脈は腹部で二股に分かれ、左右の足につながっています。この分かれた下の方で動脈硬化が起こると、片足の血のめぐりが悪くなり、ある距離を歩くと足が痛くなる、休むとなおるという症状が現れ(間欠性跛行という)、さらに進行すると最悪は足の先が痛んできて壊疽(えそ)という状態になります。

 ・大動脈瘤 胸や腹の太い動脈の動脈硬化で弱くなった部分が瘤(こぶ)のように飛び出してできます。少しづつ大きくなり直径が6、7cmにもなると破裂して大出血することがあります。また動脈の壁が突然裂けて起こるのが解離性大動脈瘤です。

 ・腎動脈硬化 腎臓を流れる細い動脈が硬くなって起こります。主に高血圧が原因ですが、最近は治療の普及で比較的コントロールできるようになりました。

動脈硬化の原因
 ではこのような色々な恐ろしい病気の元になる病的な動脈硬化は、なぜ起こるのでしょうか。これに関しては主として心筋梗塞の研究から、いくつかの危険因子(リスクファクター)として明らかになっています。それは ・高脂血症 ・高血圧 ・糖尿病 ・タバコ ・高尿酸血症 ・ストレス ・運動不足 ・A型性格 ・性別 ・年齢 ・遺伝 などです。これら一つづつでも院内通信の一回分が書けてしまう位の内容がありますが、ここでは要点だけを述べます。
 動脈硬化の成り立ちをもう少し詳しく見ると次のように考えられています。先に書いた動脈の構造を参照して下さい。まず動脈の一番内側の内膜の内皮細胞が障害を受ける→血液中の細胞が血管の壁に入り込む→同じように壁に入り込んだコレステロールを細胞が取り込む→平滑筋細胞が増殖する→全体として動脈の壁が分厚く硬くなる、となります。要するに動脈の一番内側を壁紙のようにべたーっと覆って保護してくれている内皮細胞が傷つくことが動脈硬化の始まりなのです。皆さんにはこの点を覚えておいて欲しいと思います。
 危険因子を一つづつ見てゆきますと、

・高脂血症 つまり血液中のコレステロールが多いと当然動脈の壁の中にコレステロールが貯まり易くなります。

・高血圧 例えば血圧が160の人は120の人より40だけ高い圧力が長年にわたって動脈壁にかかり続けることになります。そうすると内皮細胞が痛んできます。

・糖尿病 合併症(網膜、腎臓、神経、心臓、脳)はほとんど動脈を傷害することで起こります。 高血糖が長年続くと、動脈壁に異常な物質が蓄積し、平滑筋細胞が増殖して、動脈硬化が進みます。  

・タバコ 動脈硬化の最大の危険因子の一つです。ニコチンと一酸化炭素が原因ですが、これらは内皮細胞を直接障害し、また血液のねばり気を増やしたり、血栓を作りやすくし、動脈壁へコレステロールが溜まるのを助けます。動脈硬化のなりやすさから見れば、喫煙は単なる習慣ではなく、高血圧症にかかっているのと同じぐらいの意味があります。

・高尿酸血症 血液中の尿酸値が高いと痛風になりやすいのは有名ですが、高脂血症
、高血圧症と合併する場合が多く動脈硬化も進めます。 

・ストレス 慢性的に精神的ストレスがかかっていると血栓ができやすい状態になります。

・運動不足 善玉コレステロール(HDLコレステロール)の低下で動脈硬化を進めますが、結果として血圧やコレステロールを増やしたり、糖尿病を悪化させることになります。

・A型性格 これは皆さんにはあまり知られていないのですが、医者の間では有名な話です。血液型とは関係ありません。簡単に言うと「せっかち」で、時間に追われ、負けず嫌いで、イライラしやすい性格といえます。反対に落ち着いて楽天的な性格をB型性格といいます。A型の人の方がB型より心筋梗塞、狭心症が2、3倍なりやすいといわれています。この性格については号を改めて書くつもりです。

・性別 男性の方が心臓病、脳卒中は多いのですが、女性は閉経後増えてきます。これは閉経前までの女性ホルモン(エストロゲン)に動脈硬化を抑える作用があるからです。 

・年齢 先に書きましたように動脈硬化は老化現象の一つですので、当然年齢とともに動脈硬化は進みます。男性では50歳以上、女性では60歳以上から心筋梗塞、狭心症になる人が増えてきます。

・遺伝 狭心症、心筋梗塞は確かに遺伝はあると思われますが、高血圧、高脂血症の遺伝や喫煙、食事習慣などが親から子に伝わるという要素がありますので、単純に動脈硬化が遺伝するのかどうかは断言できません。

 以上のように多くの危険因子がありますが、高脂血症、高血圧、糖尿病、喫煙は特に影響が大きく、4大危険因子といえるでしょう。それぞれが重なるほど動脈硬化は進みやすく、先に述べた種々の病気にかかる確率は何倍にも増すことになります。

動脈硬化の診断方法
 では実際の患者さんの体内で動脈硬化が起こっているのかどうかを知る主な方法をお教えします。

・血管造影 足の付け根や腕の動脈から細い管(カテーテル)を心臓や脳の血管の入り口まで入れてゆき、造影剤を注入してレントゲン写真をとります。血管がきれいに写り、動脈硬化を知るには最高に精密な方法です。しかし局所麻酔した上で行い(要するに痛い)、検査のあと一晩の安静が必要であることから普通は入院が必要で、簡単にはできません。狭心症や心筋梗塞、閉塞性動脈硬化症に既になっている場合か、脳動脈硬化が他の検査で発見され、手術の対象になるという時などにしか行いません。余談ですが私は大学病院時代は循環器内科の医局にいて、心臓カテーテルの検査を手伝っていました。特に糖尿病が進行して狭心症、心筋梗塞になった患者さんの冠状動脈は動脈硬化が激しく、細いところがいくつもあり、「枯れ枝」のように写っていることがよくありました。このような状態になる前に病気をコントロールしなければ、という気持ちが開業したきっかけの一つです。

・CT 胸部または腹部の太い動脈の「輪切り」を写し、硬化を判断します。最近ではヘリカルCTという機械で心臓の冠状動脈まで写せるようになりました。ただ動脈の中まではわからず、どこの病院でも手軽にできるというわけではありません。

・MRI 血管をみる場合はMRAと呼ばれる検査で、特に脳の血管は比較的細いところまで写ります。また普通の脳のMRIで、症状のないうちから小さな脳梗塞がいくつか見つかることがあります。ただこれは50歳以上の人の半数に見つかるともいわれ、この結果だけで動脈硬化が進行していると考えるのはあまりにも行き過ぎです。高血圧その他の病気の程度や他の検査結果を合わせて総合的に判断すべきでしょう。

・眼底検査 すこやか健診では眼科を受診していただいて調べてもらっています。内科の健診なのになんでわざわざ眼科に行く必要があるのか、とお思いでしょう。実は眼底動脈というのは人体の中で唯一肉眼で見ることのできる動脈なのです。特に高血圧と糖尿病による動脈硬化の進行具合を反映しています。

・脈波 小さな機械に手の指を入れて脈の波の形を記録して計算し、動脈硬化の程度を数字であらわします。簡単で時間もかからず良い検査ですが、本当に種々の病気の動脈硬化を反映するのかどうかは今後の研究の結果を待たねばなりません。

・頚動脈エコー 大動脈から脳へ行く途中の頚動脈の内腔をエコーでみます。実際に動脈壁の状態を見ることができ、痛みもなく、繰り返しできます。費用も安いです(3割負担の方でも1,050円、65歳以上ならもちろん診察代の800円のみ)。ここで動脈硬化が見つかれば心臓や脳にも動脈硬化が存在する確率が高いといわれ、非常に良い検査です。今年から近藤医院でもできるようになりました。(装置代70万円しました。どうでもいいことですが。)危険因子のある患者さんについて検査をし始めていますが、その他の方でもご希望があれば遠慮なく申し出て下さい。

動脈硬化を防ぐには
 ここまで書けばどうすれば良いかはおわかりでしょう。先に述べた危険因子を一つでも減らすことです。性別、年齢、遺伝はどうしようもありませんが、高脂血症、高血圧、糖尿病、高尿酸血症の人は正しく治療すること(食事が最も大切)、タバコを吸っている人はやめること、あとは適度に運動し、イライラせずストレスをためないことです。動脈硬化の原因はがんの原因に比べてはるかによくわかっており、コントロールや予測が可能です。生活習慣病といわれるゆえんです。

さいごに
 動脈硬化は病名というより、動脈の状態をあらわす言葉です。通常は表に現れることはなく、心臓病、脳卒中になってから気づかれます。つまりこのような病気は氷山の一角で、水面下には長年にわたって内皮細胞をさんざん痛めつけて出来た動脈硬化が横たわっています。皆さんにはこの血管を一生大切にして欲しいと思います。

(平成13年5月)


トップページへ
院内通信(目次)へ
前号へ
次号へ