やっぱり恐い脳卒中

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やっぱり恐い脳卒中

今年も暑い季節がやってきました。「暑い暑い」と言っても涼しくなるはずはないのですが、ついつい挨拶がわりに「今年は暑いですねー。」という言葉が出てしまいます。
今回の院内通信は脳卒中を取り上げました。高齢の方が最も心配しておられる病気の一つであり、医師の方も患者さんを診察する時、「この症状は脳卒中ではないか。」と常に頭に置いています。ではまず「脳卒中」の言葉の意味から軽い症状の見分け方、予防についてみてみましょう。

脳卒中という言葉の意味と分類

最初に言葉の意味を解説します。「卒」は「にわかに」で、「中」は「あたる」という意味で、脳卒中とは「突然に脳の血管が破れたり、詰まったりしておこる病気」をまとめたものです。これには大きく分けて、①脳出血(血管が破れる)と ②脳梗塞(血管が詰まる)の二つがあります。それぞれをもう少し詳しく言うと、

  1. 脳出血は脳の中に入り込んでいる血管が破れて起こるもので、高血圧が原因です。それとは別に「くも膜下出血」というのもあります。これは脳の表面を走る血管にある動脈瘤という小さなこぶが突然破れて出血するものです。くも膜下出血も大変な病気の一つですが、原因は先天的なことがほとんどなので、今回は詳しくは触れずにおきます。
  2. 脳梗塞は血管に血栓(血のかたまり)が詰まって、その先に血液が流れなくなり、脳の一部が壊死して起こります。血液は酸素を運んでいるのですが、脳は低酸素状態に非常に弱い臓器で、数分でも血液が流れず酸素が来ないともう元には戻りません。この脳梗塞には大きく分けて脳血栓と脳塞栓(のうそくせん)の二通りがあります。脳血栓はおなじみの言葉で、脳の血管に動脈硬化が起こり、そこに血栓が出来て、詰まったり、さらに細い血管に流れて行って詰まり、梗塞を生じるものです。脳塞栓とはやや聞き慣れない言葉ですが、脳梗塞の大きな原因の一つです。これは脳の血管ではなく、心臓の中にできた血栓が急にはがれて脳の血管にまで流れて行って詰まっておきる脳梗塞です。心臓の心房細動という不整脈が原因です。
    最近の統計では、年間14万人の方が脳卒中でなくなり、その内訳は脳梗塞が約62%、脳出血が25%、くも膜下出血が12%でした。

どんな時に脳卒中を疑うか

左右どちらかの手足が動かない、意識がない、言葉が出ない、ろれつが回らない、手がしびれる、などの症状が突然に現れればどんな人でも、脳卒中を心配して病院や診療所に受診されるでしょう。このようなはっきりした症状が現れたら診断がついてすぐ対処できるのですが、問題は症状が軽い場合です。以下のようなことがあります。

麻痺
物を落とす、つかみにくい、何となく手足の動きがぎこちない、など軽い麻痺のことがあります。
しびれ
触っている感じや、痛みを感じる神経が障害されて、感覚が麻痺したり、異常な感覚(びりびりする感じなど)が起きます。腕や手のしびれ感が新たに出てきた時、当然脳卒中を考えねばなりませんが、開業医としての経験からいうと、しびれ感の原因としては脳ではなく、腰、頚や肩の関節の異常が原因のことが圧倒的に多いです。脳からきているのかどうか診察して区別しなければなりません。
めまい
ぐるぐる回る回転性めまいや、フワーッとする浮遊感、立ちくらみのような感じを経験された方は多いでしょう。外来にもよくこのような患者さんが来られます。その中で脳卒中を心配された場合、病院に紹介して脳のCTを撮ってもらうことがあります。しかしそのような患者さんでめまいの原因になる脳梗塞が見つかることはまれです。急に起こるめまいの原因としては脳卒中よりはむしろ、疲労、肩こりや耳の三半規管という体のバランスを調節している所の異常が多いです。しかし脳卒中の中でも小脳という部分に出血が起こったとき、激しいめまい、頭痛、吐き気が起きることがあります。めまいの場合すぐCTをとる、というのではなく、他の神経の症状がないかを診察して調べることが重要になってきます。
頭痛
急に今までにない激しい頭痛が起こったらくも膜下出血を考えよ、というのは医学の常識です(何年も前からある慢性的な頭痛は別として)。脳の中で出血すると外側を被っている膜が引っ張られて痛みが起こります。意外に思われるかも知れませんが脳の中には痛みを感じる神経はありません。ですから脳梗塞や脳腫瘍ではあまり強い痛みは起こらないのです。
眼の症状
「物が二重に見える」「視野がせまい(左右どちらかの端の方が見えない)」「まぶたが垂れ下がる」などという症状が脳卒中でみられることがあります。眼の症状は大切で、明らかな麻痺がないのに眼の症状だけがある、という脳卒中もあります。
失語
これは「しゃべることはできるが言葉がでてこない、理解できない」という現象です。例えばはさみを見せて「これは何ですか?」と質問しても「はさみ」という言葉が出てこないのです。もちろん「ハ、サ、ミ」とう発音はできます。しかし「このような形をした道具は、『はさみ』という名前だ」というように脳の中でつながらないことが原因です。場合によっては「何をいっているのかわからない」「何もしゃべらなくなった」という症状で家族の方が連れてこられることがあります。

以上のように脳卒中にも症状が重い場合から軽い場合まで様々あり、見落としを防ぐためには患者さんの「今日は何かおかしい、いつもと違う」という注意力が必要です。

異常が見つかったらどうするか

上記のような症状で受診して頂きますと、詳しい問診をして経過を聞き、神経の異常がないか診察します。診察の一部を紹介しますと、まず坐って、両腕を手のひらを上に向けて前にまっすぐ出します。そこで眼を閉じてしばらくそのまま腕をのばしたままでいます。左右どちらかの腕が反対側より下がり、手のひらが内側に向けば軽い麻痺が疑われます。
その他の診察で脳卒中の診断がつくか、疑いが濃厚であれば神経内科のある病院へ紹介します。そこで脳CTなどの検査をふまえ、脳卒中の診断が確定すれば入院です。脳卒中はたとえ症状が軽くても入院が原則です。というのは脳卒中を発症すると一週間以内に再発する危険が高いからです。最初は少し手の動きがおかしかった程度だったのが、数日後には突然意識を失った、ということがあり得るわけです。ですから最初の一週間は特に注意しなければなりません。

脳卒中の原因は

いろいろな脳卒中のタイプについて述べましたが、今度はその原因を書きます。脳出血と脳梗塞ではやや異なりますので分けて書きます。
脳出血の原因はほとんど高血圧です。長年にわたって血圧の高い状態が続くと、血管に負担がかかり、脳の中に入り込んでいる細い(直径0.2-0.3mm)血管に小さな瘤(動脈瘤)ができて、それが突然破れて起こります。昔は「脳溢血のういっけつ」と呼ばれて恐れられていました。よく高齢の方が風呂で急に倒れたりして発症することで知られています。最近は患者さんの意識が高まって、高い血圧をほっておく人は少なくなり、このような高血圧性の脳出血は減ってきましたが、それでも発症する人はあります。有名なくも膜下出血は、高血圧とは直接関係がなく、自然に動脈瘤ができて、破れて発症するものです。
脳梗塞の原因もやはり高血圧が多いのですが、これに糖尿病、タバコというおなじみのメンバーが出てきます。要するに脳梗塞、特に脳血栓でおこるものは原因は動脈硬化です。高血圧が長く続くと、脳出血の時のような動脈瘤だけでなく、血管に負担がかかって壁が傷つき、それを治すために硬く分厚くなっていきます。これが動脈硬化で、その結果血管の中はせまくなり、血栓が出来て詰まると、血液の流れがせき止められて、そこから先の脳の部分は窒息し、はたらかなくなります。
日本人で血圧が高いと、大体どれくらいの人が脳梗塞になるか、ということを調べた資料があります。男性で、人口1,000人に対し、正常血圧の人で脳梗塞を起こす人は年間3人、軽症高血圧で8人、中等症高血圧で10人、重症高血圧で24人ということです。「1,000人の中で10人? 100人に1人か。たいしたことないな。」と思われるかもしれません。しかしこれはあくまで「一年間で」という数で、毎年重なればかなりの確率になります。それと軽症高血圧のひとでも脳梗塞の確率は、正常血圧の人の2.5倍以上になることに注目してください。
また高血圧の人の動脈を調べると、大動脈では10年、脳の動脈では15から20年、動脈硬化が早く起こる、という研究結果もあります。動脈硬化は誰でも年令とともに起こってゆくのですが、高血圧があると血管が痛んで、早く老化することになります。

もう一つの脳梗塞を起こしやすい原因は糖尿病です。統計的には糖尿病の人はそうでない人に比べ、脳梗塞は4.2倍なりやすく、死亡率は2倍と言われています。糖尿病があると動脈硬化が進みやすくなります。糖尿病という状態は皆さん御存じのように、血液中のブドウ糖の量が多い状態をいいます。ブドウ糖が多いと、血管の壁の中にしみ込んで異常な化学反応が起こり、血管を障害して動脈硬化を起こします。

あとよく話題になるコレステロールですが、従来は脳卒中には直接に関係していないといわれてきました。コレステロールはむしろ心臓の血管が詰まっておこる心筋梗塞の方に関係が深いことがはっきりしています。しかし最近、コレステロールを下げる薬で脳卒中の発症が減少する、というデータが色々出てきて、高コレステロールも脳卒中の原因になるのではないか、と注目されています。

タバコも動脈硬化の原因になり、脳梗塞の発症率を高めます。
タバコとくれば次はアルコールですが、飲酒量が多いほど脳出血の頻度が高いというデーターもあります。「絶対に禁酒」ということは言えませんが、高血圧や糖尿病のある人は控えていただいた方が良いでしょう。

脳卒中の前兆はあるか

よく患者さんからこのような質問されます。これに対する医学的に正しい答えは、「前兆がある場合もあるし、ない場合もある」です。もしはっきりした前兆の症状というものが必ずあるならば、そういった症状が現れた時に診察を受ければいいのですが、残念ながら脳卒中の前兆に関する研究は十分には行われていません。

患者さんが言われる「前兆」に近いものとしては「一過性脳虚血発作」という状態があります。これは「脳梗塞の症状が現れても24時間以内に自然に、完全に消失したもの」をいい、小さな血栓が詰まってもすぐ溶けたり流れたりして、梗塞に至らずにおさまってしまうものです。多くの場合、15分以内に症状は消失します。この一過性脳虚血発作を起こした患者さんの約3分の1に後で大きな本物の脳梗塞が起こるとされています。ですから先に書いたような脳卒中の症状である、麻痺・感覚障害・視力障害・失語・喋りにくさ、などが起こって数分でなおっても注意が必要です。ただよくある単に「めまいだけが起こる」「ふらふらする」だけというのは、この一過性脳虚血発作ではありません。

脳出血、特に高血圧が原因で起こるものは前兆はほとんどありません。突然起こります。

症状がないのに脳梗塞?  

めまいや頭痛で、患者さんが「脳に異常がないか調べてほしい」と希望された場合、病院に紹介してCTやMRIを撮ってもらいます。こうした場合、小さな脳梗塞が見つかることがよくあります。最近はMRIの性能がよくなり、また脳ドックというのも普及して異常が見つかることが増えました。こういうのは「無症候性脳梗塞」といい、60歳以降増加し、70歳以降の人に検査をすれば3、4割の方に見つかります。無症候性ですから何の症状もない人にも見つかるわけで、正常の老化現象の一部とも考えられます。さらにこの小さな梗塞がみつかった方に抗血小板薬(血栓ができるのを防ぐ薬)を処方しても再発予防効果はなく、むしろ出血の危険があるとされています。しかし、高血圧症の人に見つかる場合が多いこと、無症候性脳梗塞のある人の経過を見ると本当の脳卒中を起こす人が多かった、という結果があります。ですから特に高血圧のある人でこれが見つかった場合にはさらに血圧をきちんと管理しなけらばならない、ということになります。

最後に

脳卒中を予防するためには、高血圧と糖尿病をちゃんと管理すること。あと脱水にならないことも重要です。夏の暑い日に汗をかき過ぎると、水分が減って血液が濃くなり、血栓が詰まりやすくなります。汗をかいてのどが渇いたら少しずつ水分補給をしてください。

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