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院内通信

「寝られへん」をどうするか
睡眠の中身
 始めに少し、睡眠というものについての基礎知識を書きましょう。我々は夜になれば当たり前のように眠くなり、床について眠りに落ちるわけですが、睡眠には二種類あります。「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」といいます。睡眠中はこの二つを交互に繰り返しています。レム睡眠は浅い眠りで、筋肉の力はだらりと抜けていますが、脳は活発に働き、目がピクピクと動いています。他人が寝ているのを見るとよくわかります。このレム睡眠の時に夢を見ていると考えられています。もう一つはノンレム睡眠で、レム睡眠より深い眠りで脳も休んでいます。いわゆる「熟睡」はこのノンレム睡眠の深い時期に当たります。普通はこのノンレム睡眠とレム睡眠を90分おきに繰り返して、最後はレム睡眠になって目が覚めるというわけです。「夜中2時間おきに目が覚める」という方がよくおられますが、それはこの深い眠りと浅い眠りの周期が一回終わったときに覚めてしまうからです。
 だいたいどんな動物でも睡眠をとりますが、高等な動物ほど深い眠りをとっています。これはもちろん、日中に働いてくれた脳を休めるためで、眠らないと集中力や思考力が低下します。また睡眠中には色々なホルモンが作られて、体の機能を正常に保っています。俗に言う「寝る子は育つ」というのは睡眠中に成長ホルモンが分泌されるからです。成長ホルモンは体の疲労回復や傷を治す働きもしています。
 また睡眠は免疫力とも関係があり、睡眠中に免疫物質が分泌されます。風邪をひくと睡眠が増え、よく眠ると早く治るのはこのためです。良い睡眠は脳を休ませるだけでなく、健康を維持するために必要です。

高齢者の睡眠
 高齢の方になりますと、入眠するまでの時間が長くなり、入眠しても途中で目が覚める(中途覚醒と言います)ことが多くなります。先に述べた浅い睡眠が増え、深い睡眠の時間が減って、全体として睡眠が浅く、分断されやすくなります。また夜間の頻尿、足腰の痛みも中途覚醒の原因になります。

 最近睡眠の専門家が「睡眠障害の診断・治療ガイドライン」というものを発表しました。その中で皆さんにも知ってもらっていた方が良いと思われるいくつかの項目を解説しましょう。

1、睡眠時間は人それぞれ
 何時間眠るのが最も健康にいいかは人それぞれ違います。睡眠時間そのものにはあまりこだわらない方が良いです。アメリカでは7時間睡眠の人が8時間以上の人より寿命が長かったという結果が出ています。必要以上に長い時間、床に入っているとかえって睡眠が浅くなり、熟睡感がそこなわれることがあります。長い時間眠れば眠るほど良い、というものでもなさそうです。
 睡眠時間は年齢とともに短くなります。50歳ごろまでは平均6.5から7.5時間ですが、70歳を越すと平均6時間弱になります。また季節の影響もあります。つまり秋から冬にかけて日が短くなるにつれ睡眠時間は長くなり、春から夏にかけて短くなります。

2、刺激物を避け、眠る前には自分なりのリラックス法
みなさんよくご存知のように、カフェインの入っている飲み物をとると眠れなくなります。カフェインは入眠を妨げ、途中覚醒を増やします。この作用は飲んでから約30から40分後に現れ、4,5時間も続きます。カフェインはお茶やコーヒーだけでなく、コーラ、栄養ドリンク剤、チョコレートなどにも含まれています。寝つきが悪ければ、寝る4時間前にはカフェインの入っている物を避けるべきです。またタバコも神経を興奮させる作用があるので、眠る直前の喫煙は止めた方がよいでしょう。

3、眠たくなってから床に就く、就寝時刻にこだわりすぎない
 自然に寝付く時刻は季節やその日の活動量で変わってきますので、自分の意志でコントロールすることは困難です。特に普段の入眠時刻の2から4時間前は非常に寝付きにくいです。つまり、「最近寝不足だから今日は早く寝よう」と思って、いつもより早い時刻に床についてもなかなか眠れないものです。「眠くなってから床につく」方がスムーズに入眠できます。簡単に言うと「寝られへんかったら、起きといたらええんや!」ということですが、この理屈は「刺激制御法」という名前で不眠症の一つの治療法としてちゃんと認められています。

 もう少し「刺激制御法」を詳しく述べてみます。患者さんは眠れない日々がしばらく続くと、「寝室から不眠を連想する」、「寝る時間が迫るとイライラする」、という悪循環におちいります。この悪循環を断ち切るため、「眠くなった時だけ寝床につく」「寝床で本を読んだり、テレビを見たり、物を食べたりしない」「眠たくならなければ寝床から出る」という指導をします。(本を読んだりテレビを見たほうがよく眠れる、という人はそれを止める必要はありません。念のため。)

 不眠症の原因には色々ありますが、その中でも「神経症性不眠」とよばれるタイプが多く見られます。これは、寝付けないで苦しい思いをする→一定時間眠らないと体に悪いと思い込む→今晩は気持ちよく寝付けるかどうか不安になる→よけいに頭がさえる→さらに寝つきが悪くなる、という悪循環が原因です。つまり睡眠にこだわるあまり、不眠が非常なストレスになってさらに眠れなくなる、というパターンです。眠ろうとすればするほど眼がさえて眠れなくなる、ということは誰でもよく経験されることとでしょう。「押してもだめなら引いてみよ」のたとえどおり、どうしても眠れなければ床を出て、眠気が起こるのを待ってみるのも一案です。

4、同じ時刻に毎日起床
 当たり前すぎて解説の必要はないでしょう。

5、光の利用でよい睡眠
 昔行われた実験ですが、地下数十メートルの全く太陽光線の届かないところで、電球の光だけで何日も人間を生活させてみると、時計がなくても大体同じ時刻に寝て起きるようになったそうです。これは人間の脳の中には、ある時刻になると眠くなったり目が覚めたりするような「体内時計」がそなわっているからです。ただこの時計はどういうわけか一日を25時間と考えていますので毎日時刻を合わす必要があります。私たちは意識せずに朝太陽の光を浴びてこの「時計あわせ」(リセット)をしています。リセットしてから15から16時間後に眠気が現れますので、夜スムーズに眠るには起床後なるべく早く太陽の光を浴びることが必要です。

6、規則正しい3度の食事、規則的な運動習慣
 朝食を毎日同じ時間に摂っていると、この一時間ほど前から胃腸の動きが活発になり、朝の目覚めが良くなります。夜食を食べ過ぎると寝つきが悪くなり、夜中に目覚めて熟睡しにくくなることがあります。食物を消化するために夜中も胃腸が働かなくてはならないので睡眠がさまたげられます。空腹で寝られない、という時には牛乳や少量のパンなど軽いものにとどめておいた方が良いでしょう。
 運動習慣のある人の方が不眠症になりにくいと言われています。日中に軽い、無理のない程度の運動を定期的にするのが効果的です。

7、昼寝をするなら午後3時前の20?30分
 以前は「昼寝をすると夜寝られなくなるからだめだ」とよく言われてきましたが、最近の研究では昼食後から午後3時までの間の30分以内の昼寝ならば夜の睡眠はさまたげない、ということがわかってきました。30分以上昼寝をすると、かえって頭がぼんやりとして起きるのが難しくなります。また夕食後に居眠りをするとその後で眼が覚めてしまい、いつもの時刻に眠れなくなります。

 もともと昼寝の習慣のない人がわざわざ昼寝をする必要は全くありません。ただ昼から午後3時までは自然に一時的に眠くなりますので、昼寝をするなら30分以内にしておいた方がよい、ということです。

8、眠りが浅い時には、むしろ積極的に遅寝・早起きに
 「寝なあかん、寝なあかん」と悶々として布団の上で過ごしているとよけいに眠れません。必要以上に長く床の中で過ごすと、かえって睡眠は浅くなり、夜中に目覚めやすくなります。このような場合、わざと「遅寝・早起き」にして床に就いている時間を制限し、熟睡感をふやす方法もあります。医療機関で正式に行う場合にはこれは「睡眠制限療法」といい、まず1,2週間の実際に眠れている時間を記録し、平均睡眠時間を計算してその時間だけ床に就いているように制限します。5日ごとにどのくらい眠れたかをはかり、床に就いている時間の内、90%以上睡眠がとれるようになったら15分だけ床についている時間を延長するという事を繰り返します。こうして徐々に熟睡感を得てゆくのがこの方法です。
 
9、睡眠中の激しいイビキ・呼吸停止や足のぴくつき・むずむず感は要注意
 これらは特殊な睡眠障害で、最近注目されてきました。一つは睡眠時無呼吸症候群で、一時期新幹線の運転士がこの病気のために居眠りをしたことが話題になりました。夜中に10秒以上の無呼吸が一時間に5回以上起こるというのが基準です。家族や、旅行中の同室の人から「イビキがかなり大きい」「夜中何度も息が止まって気になった」と指摘されることが多いです。この病気は肥満の人に多いですが、やせている人でもあります。夜中の無呼吸のため熟睡できず、日中に眠気が強く、集中力が低下し、仕事の能率が悪くなったり最悪の場合、交通事故がおきる場合もあります。また夜に呼吸をしていない時間帯がたくさんあるために内臓にも負担がかかり、高血圧や心臓病の原因にもなります。

 夜中の無呼吸を指摘され、日中の眠気の強い人はこの病気の疑いがありますので、検査を受けることをお勧めします。検査は呼吸や血液中の酸素を測る小さな機械をつけたまま一晩寝てもらって行います。治療法は色々ありますが、CPAPといって特殊なマスクのついた空気を送り込む機械を使うことが主流です。

 もう一つは「むずむず足症候群」で、床についてから、数時間にわたってじっとしていると足がむずむずしたり、ほてったり、ぴくついたりまたは急に足がそり返ったりして眠れないという病気です。原因は色々ありますが、貧血でも起こることがあり、その他色々治療する薬もあります。

10、十分眠っても日中の眠気が強い時は専門医に
 不眠症とは別に「過眠症」という状態もあります。日中に過剰な眠気が起きる状態をいいます。夜間の睡眠はある程度とれているのに、人と話をしている時や自動車運転中に突然居眠ってしまう、という病気もあります。これは睡眠障害専門医の診察が必要です。

11、睡眠薬代わりの寝酒は不眠のもと
 アルコールは確かに寝つきは良くなりますが、飲んで数時間たつと睡眠を浅くする効果があり、明け方早く目が覚めたり、途中で眼が覚めることが多くなり、睡眠の質が悪くなります。また寝つきが良くなっても連用すると効かなくなってきて、しだいに飲酒量が増えてきます。睡眠薬代わりに寝酒をすると肝機能障害やアルコール依存症の原因になりやすいです。眠るためにアルコールを利用するのは危険です。

12、睡眠薬の使用について
 
睡眠薬に対する誤解
 睡眠薬ほど服用に抵抗感のある薬もないでしょう。常用している人も「本当はのんだらあかんけど寝られた方がいいからのもうか」というそこはかとない抵抗感を感じながら服用している人が多いのではないでしょうか。睡眠薬は確かに良く効きます。しかしそれでもなんとなく罪悪感を感じてしまうのはなぜでしょうか。くすりで無理やり脳のはたらきを抑えて人工的に眠らせているということに対して我々はどうしても抵抗があります。また「睡眠薬は癖になる」という黒いウワサも絶えません。本当は睡眠薬はそんなに悪いものでしょうか。それについてやや詳しく説明します。

現在のものは安全
 睡眠薬のイメージが悪い原因の一つは、かつて自殺によく用いられたことでしょう。これは昔の睡眠薬(バルビタール系)の副作用で、大量に服用すると呼吸が抑えられてしまう、という現象が見られたことです。またそのような睡眠薬は依存性が高く(癖になりやすい)、また長く服用していると効果が薄れてくるために量を増やさざるを得なくなる、という問題点がありました。しかし現在の睡眠薬(ベンゾジアゼパン系)はそのような副作用はありません。大量に服用しても呼吸がおさえられることはありませんし、長期に使用しても効果が薄れてくることはほとんどありません。
  
アルコールとの併用はぜったいダメ
 アルコールと睡眠薬は絶対に併用してはいけません。この理由は、アルコールと睡眠薬が互いに作用を強め合って睡眠薬の副作用(翌日の眠気、ふらつき、脱力など)を出やすくするからです。また同時にのむとその後の記憶が全くなくなってしまうことがあります。これは前向健忘といい、睡眠薬をのんだ後電話をかけたり、トイレに行ったことを全くおぼえていない、などという現象です。薬の効果が切れれば元に戻りますが、これはよく痴呆と誤解されます。さらに併用で興奮状態となったり、錯乱状態に陥ることもあります。
 
睡眠薬を続けると痴呆になる?
 「睡眠薬を長期に続けていると呆けるのではないか。」という質問をよく受けます。これが睡眠薬に対する抵抗感の最大の原因でしょう。この問いに対する答えについてはまだはっきり結論が出ていません。私も色々発表された論文を調べてみましたが、、「睡眠薬を服用したことのある人の方が痴呆になった人が多い」「高齢の睡眠薬常用者は脳の機能が低下している」という結果を出している研究者もあれば、「睡眠薬を服用している人の方が数年後にアルツハイマー型痴呆になった人が少なかった。」という逆の結果もあります。要するに睡眠薬で痴呆になるともいえないし、ならないとも言えない、というのが今の段階での結論です。
 ただ、そういうなら今痴呆になっている人が皆今まで睡眠薬を常用してきたのかというと、全くそんなことはありません。つまり今ここに睡眠薬を服用している人が100人おられたとして、全員がそのままずーっと服用し続けると20年後には100人全てが痴呆になっているというようなことは考えられません。
 
睡眠薬の種類
 睡眠薬にはいくつか種類がありますが、作用時間から大体4種類に分類されています。@超短時間作用型 A短時間作用型 B中間作用型 C長時間作用型 の4つです。@は消失半減期(薬の量が半分になるまでの時間)が2から4時間のもので、ハルシオン、マイスリーといった薬がここに入ります。早く効き、翌朝にも残りにくい、という特徴があります。Aではレンドルミンという薬がよく使われます。半減期が6?10時間でやはり短く、翌朝に持ち越すことも少ないです。Bの中間作用型は半減期が20?30時間でかなり長いものですが、短時間作用型の睡眠薬では朝まで眠れないという人に用います。当院ではベンザリンという薬を使っています。Cの長時間作用型は半減期が50から100時間という大変長いもので、特殊な場合に使います。

睡眠薬の作用メカニズム
 脳には体を目覚めさせている、「覚醒中枢」という場所がありますが、睡眠薬はここにはほとんど作用しません。脳には別に「大脳辺縁系」という所があり、感情をコントロールしています。睡眠薬はこの場所に作用して感情的な興奮をおさえ、睡眠を導きます。
 

安定剤と睡眠薬はどうちがうか
 よく患者さんから受ける質問の一つです。安定剤も睡眠剤も同じベンゾジアゼパン系と呼ばれる薬で、不安に対する作用の強いものが安定剤とされ、睡眠を促す作用の強いものが睡眠剤と呼ばれています。つまりは同じ仲間の薬だが作用が少し違う、というところです。
 また睡眠導入剤という言い方をされることがあります。これは先に述べた超短時間または短時間作用型の睡眠薬のことで、寝つきの悪いタイプの不眠症に、入眠をうながす目的で使います。

睡眠薬をやめるとき
 そうは言っても睡眠薬に対しては何とない抵抗があります。「出来れば止めたいけど、のまないと寝られない。」という葛藤に悩んでおられる方も多いと思います。現在の多くの医師の一般的な考え方としては、「不眠の原因となる事がなくなれば減量、中止する。しかしどうしても離脱できない人は必要最小限度の服用を継続してもらう。10年、20年と服用した後に脳の機能が低下する可能性は否定できないが、毎日十分に睡眠をとって快適に過ごした方が良いとも考えられる。」というものです。ですから睡眠薬を毎日のんで生活が安定していればそれはそれで良いと思っています。ただ服用せずにすめばそれに越したことはないので、一度は減量または中止を試みる価値があります。
 その場合に注意することは、睡眠薬を突然やめてしまうと以前よりかえって眠れなくなってしまうことがあるということです。これはいわゆるリバウンド現象で、「睡眠薬は癖になる」という言い方をされる原因の一つです。中止するときには一錠の3/4かまたは半分にするか一日おきに服用するなど徐々に減らしてゆかねばなりません。また減量・中止する時には不眠に対する恐怖心が消失していることが前提です。自己判断で止めるのは危険です。必ず医師に相談しましょう。


自律訓練法
 寝られないけどどうしても薬は使いたくない、という方もよくおられます。この自律訓練法は心と体の緊張を自分でほぐすことができるようになり眠りやすくなる方法の一つです。いすに坐るかまたは仰向けに寝た状態で、「気持ちが落ち着いている」「手足が重たい」「手足が暖かい」という自己暗示を行い、リラックスした状態を作り出せるようにします。練習すれば、実際に手足が重くなったり、暖かい感じが実感できるようになります。入眠もしやすくなりますし、目覚めも良くなります。慣れてくれば電車やバスの中でもリラックス状態になることが出来ます。またこの方法は不眠症だけでなく、不安やイライラ感の強い場合やパニック障害などの治療にも使われています。全く病気のない方でも健康法として身に着けても損はありません。当院ではこれまで数人の方に個別的に来院していただいて指導しましたが、今後は数人の方を一緒に指導する計画もありますのでご希望の方はお申し出ください。

(平成15年9月)


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