「わたし最近、もの忘れがひどくて困ります。認知症になってきているんでしょうか?」という質問を外来でしばしば受けます。これはなかなか切実な質問ですが、もの忘れ(記憶障害)には「認知症で起こるもの忘れ」と「年齢に伴うもの忘れ」があります。上記のように質問されてこられる殆どの患者さんは「年齢相応のもの忘れ」で、心配のないものです。今回は二つのもの忘れの違いについて説明します。
なおこの原稿は、平成18年4月29日に平岡校区連合老人会総会で行った講演の内容に加筆したものです。
認知症には①アルツハイマー型 ②脳血管型 がありこの二つで8、9割を占めます。②は脳の動脈が詰まって脳細胞が傷害され、認知症症状が起こる病気ですが、もの忘れが認知症によるものかどうかが問題になる時には殆ど①のアルツハイマー型認知症かどうかが重要ですので、こちらのほうで説明します。
以下のような特徴があれば、「これはアルツハイマー型認知症のもの忘れかもしれない」と考えられます。逆にこのような特徴がなければ、「年齢に伴うもの忘れ」と考えられます。
その他、認知症の初期ではないかと疑われるのは以下の症状が見られる場合です。
大体以上のようなことが認知症のもの忘れと年齢に伴うもの忘れの区別する方法です。ただ典型的な症状が現れる場合は診断は難しくありませんが、もの忘れ症状があるだけの場合、これが認知症の非常に初期の症状なのか、それとも年齢に伴うもの忘れなのか区別しにくい場合も多いので医師の診察が必要です。
アルツハイマー型認知症の原因は世界中で研究されていますが、現在解明されていることを簡単に言うと、「ある特殊なたんぱく質(アミロイドといいます)が脳の神経細胞に貯まってくる→神経細胞が障害される→脳が萎縮する」という経過が考えられています。しかしなぜアミロイドが貯まってくるのかという根本的な原因はまだわかっていません。
もう一方の認知症である脳血管型の方は、動脈硬化が原因で、脳の細い血管がいくつも詰まって小さな脳梗塞がたくさんできることから認知症症状が起こってくるものです。
アルツハイマー型に関しては、野菜や果物に含まれるビタミンEや、魚に含まれるEPAやDHAという脂肪酸を多く摂った方が、発症しにくいと言われています。また、運動したり活動量が多いほうが脳の萎縮が抑えられる、という研究もあります。脳血管型は動脈硬化が原因ですので、高血圧や糖尿病の管理が必要です。
いずれにしても野菜、果物、魚を食べて定期的に適度な運動をする、というどんな病気でも言われているごく当たり前のことが重要ということになります。
本原稿では以下の資料を参考にしました。
・JIM 2006年第4号 「典型的なアルツハイマー病の診断は難しくない」川畑信也
・日本医師会雑誌 平成17年 第134巻 第6号 「アルツハイマー病 ―最近の動向―」
・「痴呆症の診断」 河野和彦
・CLINICIAN 「かかりつけ医のための認知症Q&A」2006年4月号
(平成18年5月)